大阪地方裁判所 昭和50年(わ)153号 判決 1975年3月19日
主文
被告人を懲役六月に処する。
この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、遊技機の賃貸営業を営んでいたものであるが、大阪市此花区四貫島梅香町二番地所在の遊技店「ニューバロン」の経営者森田大陸及び同人の妻森田伸子との間で、同遊技店の客を相手に被告人の提供する遊技機を用いて賭銭博奕をしその勝金を一定の割合で分配することを共謀の上、常習として、昭和四九年一一月二九日午後三時一五分頃から同日午後五時五〇分頃までの間に、右遊技店「ニューバロン」において、遊技客が所定の模擬硬貨(コイン)一枚乃至六枚を適宜に投入口より投入した上で始動ハンドルを引くことにより、機械の運転で偶然に勝負が決し、遊技客が勝てば投入コインの枚数と勝ち点に応じて二枚乃至一、五〇〇枚のコインを取得し、負ければ投入コインを全部失う仕組のスロットマシンなる被告人提供の同店に設置された遊技機を用いて、右コイン一枚を現金五〇円で貸与、換金する方法により、前記森田夫妻と共に右遊技機の設置者として胴元になり、同店の従業員を使って遊技客の三木万王に合計八、〇〇〇円、橋本孝に合計二一、〇〇〇円、伊崎歌男に合計二、〇〇〇円の現金と引き替えに応分のコインを貸与し、同人等をして右遊技機による勝負をさせて、同人等との間に賭銭博奕をしたものである。
(証拠の標目)≪省略≫
(法令の適用)
一、判示所為につき、刑法一八六条一項、六〇条
二、刑の執行猶予につき、刑法二五条一項
(常習性の認定について)
弁護人は、被告人には賭博関係の前科が皆無で、公訴事実も一時の賭博行為を取り上げているに過ぎないから、被告人に賭博の常習性は認め難いと主張する。
常習賭博罪における常習性は、賭博行為を反覆する行為者の常習性である。賭博関係の前科の存在は、その認定資料として軽視できないものであるが、右前科の不存在が必然的にその常習性の否定を導くわけではなく、また、右のような習性の発現と認められる以上、たまたま捕捉された一時一回の賭博行為についても常習賭博罪が成立する。
なるほど、被告人には賭博関係の前科が皆無である。しかし、前掲各証拠によると、被告人は、昭和四七年八月頃、機種は異るが判示遊技機と同様に偶然に勝負を決する仕組の遊技機二台を知り合いの喫茶店に提供して設置し、その喫茶店の経営者と組んで喫茶店の客を相手に判示同様の方法による賭銭博奕を営業的に行い始め、以来、その行為が賭博罪に該ることを認識しながらも、判示犯行当日までの約二年三月の間にわたり、中止を考えることなく、却って賭博性のより強度な遊技機を揃え、その台数を増し、その設置場所を遊技店に向ける等その規模を拡げつつ判示同様の方法による賭銭博奕を職業的に継続してきたこと、そして、被告人は、右の間、正規の遊技機賃貸業も営んでいたとはいえ、右の賭博による現金収入をかなりの目当てにして生計を立ててきたことが認められる。このような事実に徴すると、判示犯行当時には、被告人にとって判示のような賭博行為の反覆は、その日常生活の中に職業活動同然として定着し、その生活態度に習性として組み入れられていたものと考えられるのであって、このような観点から、被告人は賭博の常習性を帯有していたものであり、判示賭博行為はその常習性の発現であったと認定すべきである。
(裁判官 米田俊昭)